太古の伝説となりし聖地イシュ・バーン
この大地を誰が最初に発見したのか、どこに存在するのか、
いつの時代のものなのか、それは誰にも分からない
ただ一つ、はっきりと言えることは、今から君達の体験する
すべてがそれであり、すべてが真実であり、そして、すべてが
君達の手にゆだねられているということだ
そして、ここから物語は始まる
時をさかのぼること数千年、イシュ・バーンの大地には、
いつの頃からかドラゴン達が住みつくようになった
本来、気性が激しく人間達と共存できるはずもないドラゴン達が、
この土地の温暖な気候のせいか、
あるいは大地の持つ不思議な力のせいか、
人語を理解し、他の種族と共に暮らす道を選んでいた
しかし、幸福で平穏な日々というものは、
そう長く続くものではない
そして、破局というものは、突然やって来るものなのだ
生きとし生けるものすべてにとって
聖地であったイシュ・バーンに、何者かが呪いをかけた
そして、楽園は一瞬にして地獄と化した。
その呪いは何故かドラゴンだけを襲い、確実に死を与えた
万物の霊長であったはずのドラゴン達が、なす術もなく、
ただ仲間の死んでいくのを見守るしかなかったのである
こうしてイシュ・バーンを追われたドラゴン達は、
次元の壁を越え、かの地『ドラゴン小国』へと
逃げ込むことになったのであるが、中には地底深くにこもり
イシュ・バーンにとどまろうとする者もいた
だが、そういったドラゴン達の大半が、呪いから逃れることが
できずに、死に絶えてしまったのであった
そして、時は流れる
ある日、『ドラゴン小国』に難破船が打ち上げられた
装飾などから察するに、どうやらイシュ・バーンの船のようだ
次元の隔たりがあるはずのイシュ・バーンからの難破船に、
ドラゴン達は驚いた
しかも、その船には生存者がいたのである
それは、小さな女の子であった。
そして、ドラゴン達に助けられたその女の子は、タムリンと
名付けられ、同じ年頃のアトルシャンというブルー・ドラゴンの
子供と一緒に育てられることになった
寿命は非常に長いのだが、滅多に子に恵まれることのない
ドラゴン達にとって、アトルシャンは百年ぶりに生まれた大切な
子供だった。それだけに、子供の大切さをドラゴン達は知っていた
たとえ、それが人間の子供だったとしても
夢のような時間が、
思い出となって、
駆け抜けていく
そして、12年の月日が過ぎ去り、
ここにもまた、
一つの別かれが、
来ようとしていた
12年前、難破船が漂着した海岸の見渡せる丘に、
タムリンは来ていた
アトルシャン「どうしたんだい、タムリン?」
タムリン 「あ、アトルシャン」
アトルシャン「さっき、白龍に呼ばれてたみたいだけど、何かあっ
たのかい」
タムリン 「わたし‥‥イシュ・バーンに帰ることにしたわ」
アトルシャン「な‥‥さてはあの爺さん、またよけいなことを‥‥」
タムリン 「違うのよ!聞いて、アトルシャン。これは、前々か
ら白龍様に勧められていたことなの。人間は、人間の
中で暮らすのが幸せだと」
アトルシャン「そ、そんなこと。今までだって、仲良く暮らしてき
たじゃないか」
タムリン 「ええ、確かに今までは良かったわ。でも、考えてみ
て。わたしは、人間なのよ。このままここで暮らせば
いつかつらい別れの日が来る。そうなってからでは遅
いのよ。だから、わたしはイシュ・バーンに帰って、
人間としての幸せを探してみるわ」
アトルシャン「・・・そうか、タムリンがそこまで考えているんだ
ったら、もう何も言わないよ」
アトルシャン「タムリン、これを角笛にして持っていくんだ。そし
て、もしもボクが必要になった時はそれを吹けば、た
とえ君がどこにいてもボクがかけつけるからね」
この翌日、タムリンはイシュ・バーンへと旅立った。
アトルシャンの角笛を片手に
ところが、その頃イシュ・バーンは、どこからともなく現われた
魔軍によって、破壊と殺りくがくり広げられていたのである
そして、イシュ・バーン唯一の王国エルバードの軍隊が
西の主戦場へと派遣されてから15年になろうとしていた
両軍の力は甲乙つけがたく、
戦いは長期戦の様相をていし始めていた
タムリンがイシュ・バーンに帰ってから、
3年の月日が流れた
長きに渡り抵抗を続けて来たエルバード軍ではあったが、
魔軍の名将オストラコンのひきいる精鋭部隊の出現によって、
重要な拠点であるドゥルグワント城にて大敗北をきっし、
その戦力の大半を失ってしまったのである
国王軍の親衛隊長サダの部隊が守る砦が落とされれば、
魔の軍勢は明日にでもエルバードの城へと襲いかかってくる
そうなればイシュ・バーンは完全に魔王の支配下に置かれ、
漆黒の闇で覆いつくされた大地は、二度とその輝きを
取り戻すことができなくなるであろう
人々が恐れ戸惑う時、タムリンは一人決意を固めていた
国中の男達が戦場に駆り立てられ、女、子供にまで、その災厄が
降りかかろうとしている今、タムリンはできる限りの力を振り絞り
魔軍に対決を挑む決心をしたのだ
そして、今こそあの角笛を吹く時が来たと確信したのである
立ち込める暗雲を振り払うかのように、
アトルシャンの角笛が鳴り響く
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