ディファレント・レルムの世界


 うーむ、どう検索をかけても「北川氏」や「トゥルー・レルム」の話が出てこない。 消滅してしまったのでしょうか。
 これだけの「世界」を作っていながら、時空間の狭間に消えていった Verle a Zholl のように、 作られた世界というのは、はかないものなのでしょうかねー。

 ゲームをお買い上げになった方は、ゲームのマニュアルが紙ぺら一枚で、 分厚いマニュアルらしきものが「ディファレント・レルム」の世界観の説明だったのに 驚かれたのではないでしょうか。これは・・・ マニュアルのページを増やす予算がなかったのであります。(たぶん)

 さて前置きはともかく、このゲームの世界観のベースである「トゥルー・レルム」の解説なしには とてもゲームの解説などできません。WEBなどで解説のリンクを示せないため、 とりあえず「ディファレント・レルムの世界設定」全文を以下に記載します。


ディファレント・レルムの世界設定

原作 北川 直
イラスト 藤村 文彦

トゥルーレルム Ture Realm

○ トゥルーレルムとは?

 “ディファレント・レルム”の舞台となるのはひとつの惑星世界で、どこかの見知らぬ宇宙に属している、地球よりもはるかに大型の惑星だ。ただ、夜空に光る月(衛星)が4つあることを除けば、地球とよく似ていて、重力や大気の組成などの基本的な性質はほとんど変わらない。

 この惑星は、直径が地球の約4倍もあり、表面積に至っては、約50倍にもなる広大な世界だ。惑星の表面の二分の一近くを占めるのが海で、海洋には三つの大陸と大きさもさまざまな無数の島が浮かんでいる。

 そこには、異質なかたちで高度な発達を遂げた文明が、いくつもの種族と国家にわかれて栄えており、科学技術にしても、物質的な面では遅れているものの、精神的な面では地球よりも大幅に進歩している。

 そして、この惑星世界は、そこで暮らしている住人たちから“トゥルーレルム”(または、“レルム”)と呼ばれている。

 トゥルーレルムという言葉は、「真なる世界」という特別な意味を持っている(それにくらべて、単にレルムとだけ言うときには、それは「世界」とか「母なる惑星」くらいの意味しかない)。

 その特別な意味には、この世界の哲学者たちの思想が反映されている。

 哲学者たちは、宇宙全体を多様性に富んだいくつもの世界が並行して存在する多元宇宙と考え、さらに自分たちの世界を宇宙の中心に座する世界だと推測した。無数もの多様な宇宙の中心であるということは、逆にあらゆる世界の可能性をすべて秘めているということをも意味する。それは、自分たちが住む世界こそが真なる実在であり、他の世界はその影にすぎないからだ!

 哲学者たちがそう考えたのには、もちろん理由がある。この世界には、それほど多様な説明のつかない変化というものがあふれていたからだ。

 たとえば、トゥルーレルムには、地球上には見られない多種多様な生物が数多く棲息している。しかも、そうした生き物たちの中には、どうやって進化してきたのか想像もつかないほど異質な生物も存在する。そのうえ、同じ種に属する生き物でも、おびただしい数の変種や珍種などが生み落とされては、生命における変化をさらに複雑で際限のないものにしている。


 また、トゥルーレルムのことを説明するうえで、忘れてならないものに“先史文明人”とその遺産のことがある。

 先史文明人とは、現在の文明が興るより前に、数万年もの太古に栄えた超文明を築いた人類に似た種族だ。この先史文明人について残されている手がかりは少なく、どういった種族だったのかはよくわかってはいないのだが、魔法に匹敵するほどの恐るべき高度な科学技術を持っていたことと、壊滅的な終末戦争によって滅亡したことだけは知られている。惑星の地表には、この先史文明人の遺跡がいくつも残されており、遺跡から発掘した先史文明の遺産が、現在の文明の発達を促したのだ。

 しかも、先史文明人の技術力はあまりにも完璧で、遺跡から発掘された機械類には、悠久の時を経てきたにも関わらず、そのまま使用に耐える状態に保たれていたものもあれば、修理すればじゅうぶん使えるものも多くあった。その結果、現在のレルムでは、先史文明の恩恵を受けて発達した産業革命レベルの技術と、先史文明の超技術が混在するという、非常に奇妙なテクノロジー体系が確立されている。拳銃とビームガン、飛行艇とフライヤーの共存なんかが、例としてわかりやすいだろう。

 この先史文明人とその遺産の存在も、レルムの多様性に一役買っているわけだ。


 それはともかく、トゥルーレルムは広大で、そのぶんだけ自然の脅威に満ち満ちた世界だ。海は果てしなく広がり、陸に目を向けてみても、そこには星まで届くかのような山脈がそそり立ち、砂漠やジャングルはかたくなに文明の侵入を拒み続けている。人間を始めとする知的種族が住んでいるのは、全惑星のわずか十分の一程度に過ぎず、後は人跡未踏の秘境として残されているだけだ。

 レルムでは、どれほど文明が発達しても、それだけでは自然の猛威に太刀打ちすることはできない。そこで、厳しい自然環境に適応して生き延びるために、超能力であるサイオニクスの能力が発達したんだ。これは、特に文明がまだ未発達だったころには、重要な意味を持っていた。レルムの知的種族は、すぐれたサイオニクスの能力に後押しされて、文明を築いてきたと言ってもいいくらいだ。

 おかげでサイオニクスは、ファンタジー世界で魔法(や魔術師)が恐れられているのとは違って、レルムの一般生活に浸透している。たとえば、大きな街にはテレパシー能力者がいて、通信手段のかわりをつとめているし、病院には医師とともに治癒能力者が待機している。テレキネシス能力者や発火能力者などは、ふつう高級軍人として一国の軍隊に採用される。このように、サイオニクスは、社会にとって貴重で有益な才能として認められている。逆に文明が発達した現在では、優秀なサイオニクス能力者が減ってゆく一方で、サイオニクスの存在はますます重要視されているのだ。

○ トゥルーレルムの4大種族

人間族
 人間族は言うまでもなく、人間だ。肌や髪の色が多少違ったり、独特の文化と生活習慣を持っていたりということはあっても、何ら変わるところはない。強いて特徴を挙げれば、サイオニクスの才能の点で傑出していて、他の種族をはるかに凌駕していることだろうか。また、最も高度に発達した技術文明を築いているのも人間族で、銃火器や飛行船などの機械類は、人間族の専売特許だ。
巨人族
 巨人族は、体格の大きい人間と言ってもいい種族だ。身長は三メートルほどで、体重も四百キロを越す。美しい容姿に、強靱な肉体と生命力を備えているのが特徴だ。ファンタジー世界で巨人族と言えば、ただ体の大きい原始人というのがお決まりなんだけど、トゥルーレルムの巨人族は、文明を嫌って荒野で暮らすことを選んだ弧高の種族だ。イメージ的には、北米インディアンなどを想像するとわかりやすいだろう。巨人族は祖先の伝統と精神文化を重んじる種族で、部族ごとに放浪の生活を送っている。また、種族的にサイオニクスの才能をまったく欠いているかわりに、サイオニクスに対する強力な抵抗能力を持つ。
飛翔族
 飛翔族は、人間によく似た二本の前肢を持つ、直立した鳥に似た種族で、全身を羽毛に覆われ、背中には大きな翼が生えている。言わば“鳥人”であるのがこの種族なんだ。鳥類と血がつながっているらしく、群れと巣を中心とする社会構造や、舞踊による礼儀作法など、鳥としての性格を多く残している。目や耳などの感覚が非常に鋭く、動きが目にもとまらないほどすばやいことが特徴だ。キャラクターとしては、空を飛べることも大きな長所だ。文化的にもとても洗練されたものを持っていて、人間族に次いで高度な技術文明を築きあげている。
龍牙族
 龍牙族は、爬虫類から進化した長命な種族で、体の大きさは、身長二メートル、体重三百キロと、人間族をひとまわり上回っている。龍牙族の最大の特徴は、その冷静な論理的思考能力で、純粋な知的能力の点では他の種族の追随を許さないものを持つ。しかし、それだけの知性を備えていながら、生まれながらのハンターとして、本能に支配される一面を持つので、血を見ると先祖返りして狂暴になることがある。狂暴化した龍牙族は、牙と鉤爪を使った肉弾戦で、恐るべき戦闘能力を発揮する! それでも、ふだんの龍牙族は、哲学的な思索活動に没頭し、孤独を愛する賢者なんだ。

○ 文明圏と非文明圏

 トゥルーレルムには、さまざまな文明国家が存在する。

 しかし、惑星としてのトゥルーレルムが、桁外れに大きく広い世界であることは、前回でも触れた通り。表面積が地球の約50倍という広さは、いくら想像をたくましくしても、とても想像しきれるというものじゃない。その広大な世界にくらべると、ようやく産業革命のレベルに達したばかりのささやかな技術文明程度では、何ほどの力も持たないと言っても、あながち間違いではないだろう。そのおかげで、レルムに居住する四つの知的種族は、惑星全土を完全に支配下におくことはおろか、どこに何があるか知ることすら、まだ満足にできていない状態にとどまっているんだ。

 そのこともあって、このレルムは、知的種族が居住し文明を築いている領域(文明圏)と、まったくの未開の領域(非文明圏)に大きくわかれている。しかも、実際に文明圏に属していると呼ぶことができるのは、全惑星のわずか十分の一程度でしかなく、後はすべて人跡未踏の秘境として残されているのにすぎないんだ。

 そのため、レルムには西のサンディアナ、東のアデラーサ、クラドシアという三つの大陸が存在するにも関わらず、文明がしっかりと根を下ろしているのは、このうちクラドシアを除いた二つの大陸だけになっている。

 そのうえ、サンディアナ大陸でこそ、まだしも文明が大陸全域に広く分布してはいるものの、アデラーサ大陸では西岸沿いの一部に集中しているばかり。大陸中央から東岸にかけては、奥深いジャングルに閉ざされているというありさまだ。クラドシア大陸にもなると、これまでに確認されただけでは、文明と呼べるものは何ひとつ存在していない。そこは、まさに未知の危険が待ち受ける暗黒大陸なのだ。

 このように、広大なトゥルーレルムでは、文明国家といえども、圧倒的な広がりを見せる未開の非文明圏の前ではまだまだちっぽけな存在だ。惑星の広さにくらべると、知的種族の人口はあまりに少なく、町や村を中心に点のように居住しているだけ。それどころか、国の中にも未開の荒野が多く残されているような状態で、国境を接する辺境からは自然の脅威が押し寄せてくる……この世界では、知的種族が広大無辺のフロンティアに乗り出していく準備は、まだ整っていない。


 とはいえ、レルムの文明国家には非常にユニークで特徴的なものが多くなっている。

 国によって政治のシステム、産業、文化、宗教観などが違うのは当然としても、トゥルーレルムならではの要素として、種族や科学技術のレベルまでが異なっているので、国ごとの印象がずいぶん変わってくるんだ。

 特に種族の違いは大きな意味を持っている。それは、種族ごとに国というものに対する考え方自体が違うからで、中には国を作らない種族もあるんだ。巨人族は部族を中心とする放浪の民族で、国のような大きな集まりを作ることを好まないし、超個人主義者の龍牙族に至っては、部族どころか十数人規模の自給自足のコロニー(群落)を作るのがせいぜいで、他種族の領土の片隅で暮らして満足している。そういった意味では、まともな文明国家を築きあげているのは人間族と飛翔族くらいなのだが、この二つの種族の間でさえ、ひと言で国家と言っても大きな隔たりがある。なんと飛翔族にとっての国とは、たくさんの群れが集まった、巨大な巣の集合体のようなものなのだ。

○ 主な国々

イシュメル  伝統と先端技術が交わる混成文化の国
 イシュメルは、西方のサンディアナ大陸の最南端にある人間族の国家だ。イシュメルは、五百年の歴史と伝統を誇る由緒ある国で、文明の発達ぶりでも最先端を行く、非常に洗練された文化を持つ国だ。
 イシュメルは、歴史のある国にしては珍しく、古い伝統と新しい思想がうまく調和を保っていることで知られている。外来の文化にも寛容で、それらが混然一体となってイシュメル本来の文化と交じりあい、ひとつの文化を生み出しているのだ。
エルフェダイン  最高の職業軍人を輩出する傭兵の国
 サンディアナ大陸の北西部のはずれにあるこの人間族の国は、“傭兵国家”としてレルムじゅうに知られている軍人の国だ。
 かつてのエルフェダインの国土は岩だらけの荒野で、作物は実らず、鉱物などの天然の資源にも恵まれてはいなかった。しかも、そのわずかばかりの収穫物も、近隣の諸国から攻めこんでくる蛮族によって容赦なく略奪されてしまうことが多かった。住人の生活は、これ以上はないくらいに非常に厳しいものだったんだ。しかし、厳しい環境はそれに耐えて生き残るだけの屈強な民族を育んだ。そして、いつしかエルフェダインの住人は、力強く、タフで、技にも長けた最高の戦士として知られるようになったのだ。
カイアネス  アネス神教を信仰する神聖帝国
 カイアネスは、サンディアナ大陸東部にあってイシュメルと国境を接する大国だ。カイアネスも人間族の国家だが、この国には他の国には見られない際立った特徴がある。
 その特徴とは、この国が国全体を挙げてひとつの宗教を信仰する宗教国家であることだ。 “カイアネス”という国名自体が、そもそも「アネスの栄光」という意味であるように、この国では至高神アネスを信じるアネス神教が信仰されている。
 カイアネスは、このアネス神教の総本山で、国の政治、文化は言うまでもなく、ありとあらゆるところに宗教思想が浸透している。

テクノロジー Technology

○ 2系統の技術体系 基本技術と超技術

 トゥルーレルムのテクノロジーは、大きくわけると、“基本技術”と“超技術”の二系統にわけられる。このうち、基本技術(ベーシック・テック)は、ぼくたちの世界で歴史とともにテクノロジーがゆっくりと進歩してきたように、自然発生的に発達した技術と、その産物のことを意味している。これに対して、超技術(ハイパー・テック)というのは、言うまでもなく、神秘的な先史文明人の技術とその遺産のことを意味しているわけだ。

結びついた技術の生み出したもの

 ゲームの舞台となるトゥルーレルムの現在は、“機械革命”より約二百年が過ぎ去った後に当たる。この二百年あまりの間にレルムの世界は大きく変貌を遂げた。二百年前のレルムは、中世じみた農業中心の鉄器文明から、ようやく次の段階である工業中心の機械文明へと移行しようとしていたところだった。

 そのころは、まだ交通機関と言えば、飼いならした騎竜や、動物に引かせる牽引車(馬車に似た二輪、または四輪の無動力車)しかなく、照明器具にしても、獣脂から作った質素なロウソクや、ススの出るオイルランプくらいしかなかった。やがて本格的な工業生産が開始されて、衣服や道具の類だけは豊富に行き渡るようになったが、テクノロジーはまだまだ未発達に近かった。それでも、工場が建設され、手作業とはいえ、同じ製品を大量生産するということは、当時においては画期的なできごとだったのである。

 だが、“機械革命”の洗礼を受けると、状況はすっかり様変わりしてしまった。近代産業の基盤として必要なありとあらゆる基礎技術が、ほとんど一夜にして、先史文明という名の泉から突然わき出してきたのだ。そうなったとしてもふしぎはない。

 “機械革命”の動きが本格化していく過程で、新しく発見、開発されたり、性能が飛躍的に向上した技術とその産物は数多い。少し例を挙げてみても、双眼鏡や望遠鏡などの光学機器、各種の合金やアルミニウム、ゴムなどの新素材、時計、発電機、畜電池、スプリング、マッチなど、ひとつひとつ並べ立てていけばきりがないくらいだ。

 その中でも、特に進歩が著しかったのが交通機関だ。

 まず初の動力機関である流体反応エンジンが開発された。このエンジンは、先史文明の技術をあますところなく応用したレルムの技術力の粋というべきものだ。その仕組みは、ある種の高濃度の混合液を燃料とする、かなり先進的な設計思想で作られた内燃機関なのだが、高出力でありながら構造が簡単で、生産も楽だったことから、同じころに独力で開発に成功していた蒸気機関を、実用化を待たずに過去のものにしてしまった。

 そして、すぐに帆とともにこの最新のエンジンを装備した新型の動力船が、さらには、基本技術の産物では初めての空を飛ぶ機械として、飛行船が出現した。もっとも、さすがに有翼の飛翔体を作ることはまだむずかしく、航空機の方は何とか実用化に漕ぎ着けるだけでさえ、さらに百年あまりの年月を必要とした。しかし、その間にも、飛行船は設計と改良を繰り返して性能を高め、レルムじゅうで大いに持てはやされるまでになった。その普及ぶりは、飛行船乗りが船乗りと同じくらい頻繁に街で姿を見かけられるくらいなのだ。

 ただ、実のところ、飛行船がそんなに普及したわけは、その輸送能力もさることながら、何ぶん文明圏を一歩でも離れると、どんな危険が待ち構えているかわからない陸の旅と違って、空の旅はまだしも安全だったからなのだ。現在では、飛行船は、遠く離れた都市と都市の間を結ぶ連絡船として、また、交易や探検などの目的でも幅広く使用されている。

 おもしろいことに、なぜか自動車はいまだに実用化のメドが立っていないが、これについては、エンジンがまだ大型で車体への搭載がむずかしいことと、安価で飼育しやすい馬がわりの騎竜が、レルムの至るところで好んで使われていることが大きな原因だろう。

トゥルーレルムの武器体系

 しかし、“機械革命”の影響を最も強く被ったのは、他でもなく、戦争の道具である武器だった。現存する新しい種族の歴史が始まって以来、重い鋼鉄の剣と甲冑が主流を占めていた戦場に、遂に本格的な火器が現われるようになったのだ。

 レルムでは、歴史の早いうちから火薬の存在こそ知られていたが、それを戦場で武器として使うようになったのはごく最近のことだ。もちろん、強力な火砲や銃器などはまだ存在せず、攻城戦の際などに投擲爆弾として使われる程度でしかなかった。戦闘の主力はあくまで、槍を構え楯をかかげて騎竜にまたがる騎兵や、剣や斧をふるう歩兵だった。飛び道具と言えば弓か石弓のことで、投げ槍もじゅうぶんな威力を発揮した。

 そこへ現われたのが、強力な火力と速射性能をあわせ持つ拳銃とライフル銃だったのだ。

 こうした銃器は、他の新しい発明品と同じく、先史文明人の遺産をもとにして開発された。先史文明人が残したものの中には、当然のことながら、弾丸発射型の銃器を始めとする各種の携帯火器もあった。レルムの技師たちは、そこから火薬を使用する銃のアイデアと、それを作るのに必要な技術を学んだのだった。

 しかも、ここでは、火薬銃というアイデアが先にあって、満足のいく結果を得るために、苦労しながら工夫を重ね、設計を煮詰めていったわけではなく、(太古の遺産とはいえ)どの点から見ても既に完成済みの現物が先にあって、言わばそこからコピーを作っただけのことなのである。おかげで、レルムには、火縄銃やマスケット銃といった銃器発達史の前の段階をすっ飛ばして、高性能の近代火器がいきなり出現してしまったのだ。

 これらの銃器は、弾を後から装填する後装銃というタイプで、弾薬は扱いやすい金属薬夾に収められており、誰でも簡単に使用することができるものだ。性能や威力は、西部劇に出てくる銃と似たようなもので、見た目の感じもほとんど変わらない。リボルバーやレバーアクション・ライフル、二連式のショットガンなどだ。初歩的なオートマチック拳銃もあるにはあるが、こちらは信頼性が低く、故障しやすい。よくアクション映画などで目にするような最新型の銃よりは、性能も落ちるし威力も弱いわけだが、それでも銃としてはかなりのものだ。もちろん、機関銃などの自動火器が発明されるのは、(いくらトゥルーレルムでのこととはいえ)まだしばらくは先の話になるだろう。

 さらに、銃器としては、火薬式の銃のほかにも、高圧ガスで鋼鉄製のダートを撃ち出す“ダートガン(射矢銃)”も開発されている。こちらは、主に護身用と狩猟用を目的とした銃で、弾丸である鉄矢に毒や薬を塗って使用できるのが大きな特徴だ。ただし、ガス圧式のため、火薬式にくらべて射程がかなり短くなるという欠点を持っている。このダートガンは、火薬式の銃より後でようやく実用化された最新型の武器なのだ。


 それはともかく、こうした銃器の出現は、レルムにおける戦争の様相と武器の体系を大きく変化させてしまうにじゅうぶんだった。かつて火縄銃の出現で戦国の世の勢力図が塗りかえられてしまったように、銃器は各国の軍隊の間にまたたく間に広まった。機械を忌み嫌う神聖帝国カイアネスの神殿騎士団でさえ、銃器の導入には熱心だったほどだ。

 ただし、銃器にしろ他の発明品にしろ、開発はすべて人間族の手によるものだった。飛翔族の文明も高い技術レベルを誇っていたが、人間族にはわずかに及ばず、先史文明人の遺産を研究して理解できる段階にまでは達していなかったのである。本来ならレルムの四大種族の中で最も高い知力を持つはずの龍牙族は、機械にはそれほど関心を持とうとしなかったし、巨人族に至っては、遺跡に関わることすらよしとはしなかった。

 そのため、銃器の出現が、レルムの武器体系を完全に塗りかえてしまうようなことはなかったのである。人間族を除く他の三種族は、依然として従来の刀剣や弓矢に頼っていたし、その人間族にしても、銃とともに必ず刀剣の類を携帯するのがふつうだった。また、銃器は非常に高価で、商品として出回る数も少なく、誰もが銃を持てるわけでもなかった。全体的に見ると、現在のレルムでは、銃を持つ者の数を2割として、残りの8割を銃を持たず、昔ながらの武器を使用していると見るのが正解だ。

 それに、どちらかと言うと、武器である刀剣より防具である鎧の方が、銃器出現の影響をさらに手厳しく被ったと言えるだろう。

 銃器の出現で、動きを鈍くするばかりか、着ている者を銃弾の標的にしかねない重厚な金属製のプレートアーマー(板金鎧)は一部の重装騎兵の軍装を除いて姿を消し、もっと軽くて動きやすい、防御と防弾、両面で効果が高い防具が好まれるようになったのだ。現在では、革製の防具にスチール製のメッシュを埋め込んだものや、他の防具に被せて使う、胸だけを防護する装甲板などが広く使用されている。そのうえ、最近では、全身を隈なく覆う完全鎧を着るような無駄なことはやめ、必要なところにだけ部分鎧を着けるスタイルが主流になってきているようだ。


先史文明 Prehistory Civilization

○ 先史文明人の遺産

 さて、ここまでは主に現在のレルムのテクノロジー、つまり、基本技術とその発展に限って話を進めてきたが、ここからは先史文明人の超技術の実態を見てみることにしよう。

 まず最初に、先史文明人の科学技術の力がどの程度のものだったのかを説明しておくと、これに関しては、ひと言で言うと、「科学によって達成できると思われる目標を、ことごとく成し遂げていたほど」と言うことができる。もっとわかりやすく言うと、つまりは、彼らには不可能なことなどなかったということだ。「進んだ科学は魔法と見わけがつかない」とよく言われるが、先史文明人の超技術こそは、まさに魔法と言っても過言ではなかったのだ。そして、先史文明人は、その超絶的なテクノロジーを思うままに行使して、この惑星だけでなく、宇宙全体をも支配し、時間や空間すら遥かに超越していたわけだ。

 こうした先史文明人の文明は、おそろしく高度に発達した機械を基本とする超機械文明で、彼らの作り出した機械類は、まるで生き物のように複雑な自律調整と自己修復の機能をあわせ持ち、ほとんど無限に近い期間、完璧に作動する動力源を備えていた。

 現在レルムじゅうに点在している先史文明人の遺跡は、ほとんどが単なる残骸にすぎないが、多少とも原型を留めている遺跡からは、何万年もの悠久の時を経てきたにも関わらず、依然として申し分なく機能する機械類がいくつも発見されている。

遺産の発見と獲得

 先史文明人の遺産の中には、国家や個人の所有となって、現在のレルムでも公に使用され続けている機械も少なくない。超技術の産物は、どんなにささいなものであっても、何十世紀も先を行くテクノロジーの粋を集めたものだ。その点、近年になっていくら著しい発達を遂げたといっても、現在のレルムの技術水準で作れる製品などは、それにくらべれば、よく言って細工のわるいレプリカのようなものにすぎない。だとすれば、誰もがこぞって先史文明の機械を探しもとめ、それを所有したがる傾向があるのも当然のことと言えるだろう。

 もちろん、人跡未踏の辺境の奥深くに隠されている遺跡を発見し、そこから価値ある品を正しく選んで持ちかえることは誰にでも簡単にできるということではない。レルムの知的種族の中では、人間族が先史文明の遺産の獲得にいちばん貪欲だったが、運よく遺跡を見つけ出して生還できた者の数は、過去の例では数百人にひとりか、それよりも少ないくらいだった。それには、ある意味では、金鉱を掘りあてることに等しい幸運が必要なのだ。

 しかしそれでも、過去に数多くの探検家や山師が遺跡の探索に挑んでは、さまざまな発見品を持ちかえってきた。そして、そうした発見品は、あるものは国に没収され、あるものは売りに出され、またあるものは発見者が個人的にとっておくなどして、じょじょに一般の生活の中に浸透していったのである。


 ただし、人々が最初から先史文明の機械を喜んで受け入れていたわけでは決してない。

 文明がじゅうぶんに発達していなかったもっと初期のころには、先史文明人の遺産は、夢のようにすばらしい魔法の機械か、恐るべき悪魔の仕掛けだと思われていたのだ。

 ここで試しに、使用法も作動原理もよくわからない未知の機械を使おうとすればどうなるか、想像してみてほしい。うまくすれば、その機能の一部を活用するくらいならできるかもしれない。だが、予想のつかない深刻なトラブルが発生する確率も、それと同じだけ確実に存在する。これは、リスクの大きい賭けのようなものだ。

 先史文明の機械がまがりなりにも使用できるようになったのも、“機械革命”による近年のテクノロジーの大発展があったからこそなのである(そのおかげで、せっかくの基本技術の成果を差しおいて、先史文明の機械が重宝されるようになったというのも皮肉な話だが)。


 ところで、そうやって発見された先史文明人の機械の中で、何よりも重要な価値を持っているものに、“トランスポッド”がある。

 これは、直立した巨大な卵型のカプセルのような機械で、中に人間がひとり座れるシートがあり、シートの両肩から突き出た二本のアームの先には、ボーリングのボールほどもある大きなクリスタルの玉が付いている。つまり、人間型の生き物がシートに座ると、クリスタルが両方のこめかみに密着するようになっているわけだ。この機械は、一種の高速情報学習システムで、内蔵するデータバンクにたくわえた情報を、相手の脳の記憶中枢に直接テレパシー的に伝達し、それを瞬時にして覚えさせることができるのだ。先史文明人は、どうやらこの機械を使って、必要とする知識を即席勉強していたらしかった。

 そして、この機械を最初に発見したある探検家は、勇気を振るいおこして機械に座ったことで、先史文明人の言葉に関する知識を授かったのである。先史文明人の言葉とその文字は、現在のレルムでは“秘文語”と呼ばれており、たいていのアカデミー(学院)で教えてもらうことができるが、それも元をたどれば、その探検家がトランスポッドから完全な教育を受けたおかげなのだ。

 しかも、同じ遺跡を訪れた何人もの人間が何度も試してみた結果、やがてトランスポッドの使用法がすっかり解明されるに至り、中の情報は、先史文明人とその文明を理解するうえで、数少ない貴重な資料として役立てられるようになった。このトランスポッドに蓄積されていた情報の中には、内容が高度すぎて理解するのに何十年もの研究が必要な最先端の科学理論などもあり、その研究に一生を捧げる学者も少なくない。しかし、残念なことには、たくわえられていた情報の大半は、元の持ち主の個人的な趣味(しかも、どんな趣味なのか想像することさえできないような趣味)に関する無意味なものだったのだ。

 この最初のトランスポッドは、現在でもイシュメル政府が所有し、保管しているが、機械を移動させることができないので機械のあった遺跡の上に街を築いたという逸話は、レルムじゅうで非常によく知られている。その街が現在の首都イシュメリアである。

 トランスポッドについては、他の国家や個人の手で新たに何台かが発見され、厳重に保管されていると言われている。また、レルムのエリート技師を束ねる超国家組織の“技術協会”(ティクラット)が、最大級の記憶容量を持つ完全な機械を一台秘蔵しているとも噂されているが、その真相は定かではない。

先史文明人の交通機関

 先進的な高速交通機関は、先史文明人の築いた超機械文明を支える一本の柱でもあった。 これは、ぼくたちの暮らす現実の世界でもそうだが、発達した文明は、それにふさわしく発達した交通機関を必要とするものなのである。

 先史文明人は、広大なレルムの惑星全土を支配していただけではなく、その支配の領域を宇宙の隅々にまで拡大していた。当然、それだけの空間を支配下におくには、膨大な距離をものともせずに行き来できる高性能の交通機関が必要になってくるわけだ。

 こうした先史文明の交通機関は、ごく少数が発見されて使用されている。

 まず自動車に相当するものとして、“ビークル”がある。

 ただし、この自動車には車輪がなく、移動することができるのも陸上だけとは限らない。陸上を走るときには、ふつう地表すれすれに浮かびあがって滑るように移動するが、必要なら海上を走ることも、空中を亜音速で飛行することもできる。

 これは、言わば万能の個人用トランスポーターで、数人の乗客を乗せて、陸海空を自在に移動することができるのだ。

 また、このビークルの中には、飛行機能を持たない低出力の陸上専用車もあり、こちらは“ランドビークル”と呼ばれている。

 これらの車輌は、先史文明人にとって最も一般的な乗り物だったらしく、比較的多数が発見されているが、機体が保有するエネルギー残量には限りがあるので、実際に走っているところを見かけるのは稀である。

 さらに航空機に相当するものとして、“フライヤー”と“オーニーソプター”がある。

 フライヤーは、有翼の飛翔体で、ジェットエンジンやロケットエンジンなどの噴射式の推進機によって空を飛ぶわけではないことを除けば、ほとんど現代の飛行機と変わらない外見をしている。推進力としては、ビークルと同じ未知のエンジンを使っているが、はるかに空を飛ぶのに適しており、最高速度と運動性能も桁違いに高くなっている。

 オーニーソプターは、同じ飛翔体にしても、まったく違う発想で作られた機械だ。こちらは、昆虫に酷似した外見をしており、高速で微振動する翼を使って空を飛ぶのである。 最高速度もビークルよりは速いが、フライヤーには遠くおよばない。しかし、その反面、運動性能だけは驚異的で、本物の昆虫に匹敵するほどの空中機動力を備えている。

 (先史文明人にとって、フライヤーが超音速ジェット機のような存在だったものと仮定すると、オーニーソプターはおそらくヘリコプターのような存在だったのだろう。)

 さすがにこうした航空機は発見された数も少なく、極めてめずらしい存在で、ほとんどが国家の所有となっており、重要人物の輸送や連絡業務、偵察活動などに使用されている。


 しかし、何と言っても、先史文明人が遺した交通機関の中で最も重要な機械は、大気圏を越えて宇宙空間をも飛行可能な超高速宇宙艇“ソーラーバージ”だろう。

 このソーラーバージは、レルム全体を探しまわってみても、わずか数機しか残存していないという貴重品で、そのすべてが国家の所有になっている。その性能はまさに驚くべきもので、エンジンにほんの数パーセントのパワーをくれてやるだけで、またたく間にレルムを軽くひと回りすることができるくらいなのだ。

 ソーラーバージは、そのあまりの高性能と希少価値ゆえに、発見されてから一度も限界まで性能を試されたことはなく、実際に宇宙飛行を行なったこともない。どの機体も、所有する国家の保管庫に安全にしまいこまれており、よほど差し迫った必要でもなければ使用されることはない。

 これこそは、遺産の中の遺産≠ニ呼ぶにふさわしい機械なのである。

スレイブマシンとマシンビースト

 先史文明人の超機械文明を支えていたもう一本の柱に、各種さまざまな“スレイブマシン”と呼ばれる自動機械がある。

 ここで言う自動機械とは、あらかじめインプットされた一定の指示に従って簡単な命令を実行するだけの初歩的なロボットとは異なり、直接指示を受けなくても状況に応じて自主的な判断を行なうことができる、高度に進化した機械生命体のことだ。

 先史文明人は、人間にかわって単純な作業を行う疲れしらずの労働者として、はたまた、個人の従僕や護衛として、こうしたスレイブマシンを好んで使用していたらしい。

 そのため、レルム全土に散らばる多数の遺跡からは、外見は言うにおよばず、種類も機能もまったく異なるスレイブマシンが何体も発見されている。

 機械体の多くは、先史文明が滅亡したときに機能に何らかの障害を来たしたり、仕えるべき主人を失って長い待機状態にあるものがほとんどだが、中には、現在に至るまで太古の命令を着実に果たし続けているものもある。

 ところで、こうしたスレイブマシンには、どれにも高性能の人工脳が組みこまれており、言葉さえ通じれば、自分に仕えるように機械体を説得することができるのだ。また、たとえ言葉で屈服させることができなくても、各機械体とペアになっている“コントロール・キイ”を手に入れれば、無条件で相手を支配することもできる。運よくスレイブマシンを発見できたときには、誰にもその機械体の主人になれるチャンスがあるのである!

 こうしたスレイブマシンは、貴重な研究材料であるとともに、それ自体が先史文明の生きた証人でもある。技術協会や各国のアカデミーでは、何体かの機械体を管理下に置いて、先史文明の遺産の研究に役立てているが、研究材料にするのではなく、実際に使用されている例も比較的よく見かけられる。

 たとえば、エンジニアとしての機能を持つ機械体が、同じ先史文明の機械を修理するために使用されていたり、医療技術者としての機能を持つ機械体が、人間の手では不可能な手術を肩がわりするために使用されていたりと、発見された機械体は、その機能に応じて、さまざまな側面でレルムの生活に貢献しているのである。


 ただし、スレイブマシンの中には戦闘を目的として作られた危険なタイプも存在する。これは、文字通りの意味で、戦うためだけに作られた戦闘マシーンなのだ。

 戦闘用の自動機械は、“マシンビースト”と呼ばれている。機械体が動物やその他の生き物の姿を真似て作られているからだが、その動作と反応速度にしても、機械とは思えないほどで、まるで本物の生き物のようにすばやく滑らかな動きをする。その点でも、機械の獣と言うにふさわしいというわけだ。

 しかも、この機械生物は、致命的な先史文明の殺人兵器を数多く装備している。獣は獣でも、ふつうの猛獣などとはくらべものにならないくらい危険な存在なのだ。

 マシンビーストは、そもそも重要な施設の警備要員として使われていたもので、文明の滅亡を生き延びた機械体は、建物が廃虚となったいまでも、太古の使命を忠実に果たし続けている。侵入者から遺跡を守ろうとして残骸の中を徘徊するマシンビーストに殺された探検家の数は、かなりの人数にのぼるだろう。

 また、同じマシンビーストでも、さらに強大な戦闘能力を持つ人間型の機械体は、“ガーディアン”として知られている。

 このガーディアンは、一体でマシンビースト数十体をあわせただけの戦闘力を有しており、先史文明華やかなりしころには、情け容赦なく敵を殲滅する自動攻撃兵器として使用されていたらしい。

 ガーディアンの実物は、まだ存在が確認されたわけではないが、その存在を暗示する断片的な証拠はいくつも発見されている。その証拠によると、ガーディアンには一体として同じものはないとか、主人である所有者と精神的に同調することができるとか言われているが、それが真実かどうかは定かではない。

 いずれにしろ、先史文明の遺産も、受け継ぐだけの価値があるものばかりとは限らないのである。

秘光石

 先史文明人の遺産を語るなら、最後に秘光石についても触れておく必要があるだろう。

 ところで、秘光石とは一体どんなものなのだろうか?

 秘光石は、水晶によく似た多面体の結晶構造物で、石の中に淡い光を宿しているところから、秘光石(光を中に秘めた石)と呼ばれている。ただし、秘光石にも種類があり、石が発する光の色はさまざまで、強さもひとつひとつ微妙に異なっている。

 これは、たしかに変わった石である。しかし、一見しただけでは、めずらしい宝石か何かに見えるくらいで、この石の本当の価値を想像することなどできないだろう。

 そもそもこの石は自然にできたものではない。自然に産するものではなく、先史文明人によって人工的に作られたものなのである。

 実のところ、秘光石は、膨大なエネルギーを保存しておくための容れ物なのである。言わば一種の燃料電池だ。ただし、この場合、中に封じこまれているエネルギーの総量は、優に原発数基にも匹敵する。先史文明人は、大量のエネルギーを簡単、かつ安全にとり扱うひとつの手段として、秘光石を生み出したのだ。先史文明人の機械は、すべてこの秘光石を動力源としているのである。

 もっとも、それ以外で秘光石についてわかっていることといえば、石の出す光の色によってエネルギーの種類が違うこと、光の強さがエネルギーの残量を表わしていること、石をいくつかに割ったり、削ったりして機械にあうように加工することができることくらいで、ほとんどが謎のままに残されている。

 しかし、秘光石は稀にしか見つからないことと、その動力源としての必要性から、莫大な金銭価値を持っている。ある意味では、先史文明人の遺産の中でも、誰もがいちばん手に入れたいと願っているのは、この秘光石なのかもしれない。


サイオニクス Psyonics

○ サイオニクスとは何か?

 超能力と言っても、その意味するところはまちまちだ。たとえば、超能力を“ESP”と呼ぶことがあるが、このESPとは、「超感覚的知覚」という意味で、本来は超能力の中でも、人間の精神に秘められた第6の感覚としてのクレアボヤンス(透視)やテレパシー(精神感応)のことだけを指している。そこには、誰もが知っているテレポート(観念移動)やテレキネシス(観念動力)などの超能力は含まれていないのである。

 トゥルーレルムでの超能力、すなわち、サイオニクスは、「生命体の精神に宿る潜在的な特殊能力である」と定義することができる。どんな生き物でも、ある程度発達した自我の意識を有している限り、強弱はともかく、このサイオニクスの能力を持っているのである。トゥルーレルムには、ある種の植物のように、群れ全体でひとつの疑似精神を作り出し、サイオニクス能力を発揮する生物までいる。しかも、レルムで言うところのサイオニクスには、ほぼありとあらゆる種類の超能力が含まれている。ESPに属する能力もあれば、“サイキック”(テレポートやテレキネシスなど)に属する能力もある。見た目がどんなに奇妙な超能力であろうと、純粋な精神による力であれば、それはサイオニクスの範疇に含まれるのである。

 特に、人間族を始めとするレルムの知的種族は、厳しい自然に打ち勝って文明を築くにあたって、サイオニクスの能力に大きく依存してきた。たとえば、医学の知識が未発達だった過去の時代には、治癒能力の持ち主こそが、ただひとつの治療手段だったのだ。サイオニクスなかりせば、今日のレルム文明の大発展は決して成しえなかったと言えるだろう。

サイオニクスの特性

 一般サイオニクス能力は、その性質の違いから、完全に独立した7系統の能力にわかれている。各能力は、それぞれ“プレコグニション(霊視)”“テレパシー(精神感応)”“テレポート(観念移動)”“テレキネシス(観念動力)”“エンパシー(情動感応)”“ボディエンハンス(肉体強化)”“ヒーリング(治癒)”である。


 プレコグニションは、超感覚的にものを知覚する能力で、壁の向こう側を透かし見たり、生命体や危険の存在を感じとることができる。過去の光景をのぞきこんだり、未来を予知することもでき、さらには、手で触れたものを通じて、その品物の由来を知ったり、それに関わりのあるヴィジョンを見ることもできる。

 テレパシーは、生き物の精神に直接思念によって接触し、心と心で会話したり、相手の思念を読みとる能力だ。催眠暗示をかけて他人を思い通りに操ったり、五感を混乱させて幻覚を見せることもできる。逆に、精神攻撃から身を守るためにも必要な能力だ。

 テレポートは、空間の隔たりを一瞬にして飛び越えて移動する能力だ。しかも、離れたところにあるものをとり寄せることもできれば、空間を歪めて次元のはざまに潜りこむこともできる。

 テレキネシスについては、説明するまでもないが、簡単に言えば、手を触れずに物体を動かす能力だ。しかし、ただ何かを動かすだけではなく、これを応用してさまざまな現象を引き起こすことができる。特に光や熱などのエネルギーを操ることができるので、弾やビームを防ぐ防護シールドを張ったり、光弾を撃つことができるのだ。

 テレキネシスは、パイロキネシス(発火)、ライトキネシス(発光)などの副能力にわかれている。

 エンパシーは、テレパシーに似た能力だが、扱うのが思念ではなく感情なので、植物などとも心で交流することができる。また、傷ついた生き物と精神的にシンクロして、自分が傷を受けることで相手の傷を癒すこともできる。

 ボディエンハンスは、おのれの肉体を意識的に操作する能力で、代謝機能を加速して受けたダメージを再生したり、筋力や反応速度を飛躍的に高めることができる。しかも、それだけではなく、肉体を変形させて、他の人間や動物に変身することすらできるのだ。

 そして、最後のヒーリングは、傷を治し病を癒す能力だ。失われた器官を再生することはもちろん、死亡して間もない生き物なら蘇生させることもできる。

特殊サイオニクス能力

 この特殊サイオニクス能力は、一般的な7系統のサイオニクス能力に含まれないサイオニクスすべてを意味している。逆に言うと、そこには、ありとあらゆる奇妙なサイオニクス能力がことごとく含まれているのである。

 ごくふつうのサイオニクス能力でも、有効な潜在能力の持ち主は数百人にひとりしか存在しないが、特殊サイオニクスにもなると、その比率は数万人にひとりのオーダーにまで跳ねあがる。それだけに、この特殊サイオニクス能力は、真に貴重でかけがえのない才能だと言えるだろう。

 ただし、特殊であるということはたしかにそれだけで貴重なのだが、ともすると、あまりに特殊すぎて単にめずらしいだけの能力で終わってしまうこともある。

 特に能力を応用できる範囲が広く、各系統ごとにたくさんの発展能力を持つ一般サイオニクスとは異なり、特殊サイオニクスはただひとつの限定されたことしかできないばあいが多い。そのぶん一芸に秀でているわけだが、その芸が役に立たないものだったりすると、まったくお話にならないのである。そこで、ゲームの中での特殊サイオニクス能力は、本当の意味で重要ないくつかの能力に絞りこんでしまうことができる。

レルム社会とサイオニクス

 トゥルーレルムでは、社会(あるいは、文明そのもの)とサイオニクスはわかちがたいほど密接な関係にある。何と言っても、過去の歴史からして、強力なサイオニクスの能力に後押しされて文明が発達してきたのだから、それも当然のことではあるのだが。

 しかも、現在でこそ数が少なく、質も低くなってしまったとはいえ、本来サイオニクス能力の持ち主は決してめずらしい存在ではなかった。現在でも、有効なだけの水準に達していないだけで、わずかばかりのサイオニクスの潜在能力を持っている人間(たとえば、ごくたまに強い感情が読みとれるだけの微弱なテレパシー能力の持ち主など)まで含めると、その人数は膨大なものになるだろう。

 そのため、一般の暮らしにおけるサイオニクスの浸透ぶりには目を見張るものがある。

 ここで、サイオニクスと社会の結びつきをわかりやすくするために、ひとつの例として、参考までに一般サイオニクス能力と職業の関係を挙げておこう。

プレコグニション
霊視能力を最大限に発揮できる警察の調査官や先史文明の遺物の鑑定人になったり、未来を見通す能力を生かして神官や占星術師になったりする。
テレパシー
都市と都市を結ぶテレパシー連絡網の中核となる精神通信士が最も多いが、他にも読心能力を生かして通訳や外交官になったり、精神の深みを探る心理学者などの研究職に就くこともある。
テレポート
もっぱら軍人やスパイとして活躍しているが、テレパシー連絡網を使わず、重要な文書などを直接運ぶ際には、往復の伝令役もこなす。
テレキネシス
軍人がほとんどだが、手を使わずに精密な作業を行なえるので、職人や技師、芸術家などになることもある。稀にエンターティナーも。
エンパシー
基本的にはテレパシー能力者と同じだが、その能力が特に心の傷などを癒すのに有効なため、精神科医のような職に就くことも多い。
ボディエンハンス
軍人の他、格闘家、サーカス芸人など、自然と体を使う職業が多くなっている。
ヒーリング
治癒能力を生かせる医療関係がほとんどで、神官になることもある。

 もちろん、ここに挙げたサイオニクス能力と職業の関係はあくまでひとつの例にすぎないのだが、レルム社会の中でサイオニクスの占めている役割は、これでだいたい見当がつくことと思う。


自然と生物 Nature & Life

○ レルムの自然と生物

 トゥルーレルムは広大な惑星世界である。その大きさは、表面積にして地球の約50倍はあろうかという、想像をはるかに上回るスケールを誇っている。しかも、それだけ広大な世界のうち、人間族を始めとする知的種族が住んでいるのは、多く見積っても、わずか10%に過ぎない。残りの90%は、人間が足を踏み入れたことのない未知の領域であり、有史以前の未開の状態のままに保たれているのである。すなわち、トゥルーレルムでは、生命の象徴たる大いなる自然が、脆弱な文明を圧倒して、惑星のほぼ全域を支配していると言うことができる。そして、レルムの雄大な自然は、生命の変化にも満ち満ちている。トゥルーレルムは、まさに生命のるつぼと言うにふさわしい世界なのである。

 トゥルーレルムがそのような生命に満ちあふれた世界になったのも、決してゆえなきことではない。

 その理由としては、まず第一に、レルムの自然が、長らく変わらざる未開の状態にとどまっていることが挙げられるだろう。レルムの自然が、変化にとんだ、おびただしい数の生命を育むことができたのも、文明の干渉を受けない状態が長く続いたからなのである。

 トゥルーレルムでは、こうして誕生した無数の新たなる生命が、うるさい人間に邪魔されることなく、厳しい自然淘汰の波にもまれながら、種の存続をかけて、終わりなき進化と滅亡のサイクルを繰り返してきたのである。

 そして、第二に、レルムの自然の持つ、他に類を見ないほどの豊饒さが挙げられる。

 トゥルーレルムは、惑星として見ると、全体的に温暖で雨の多い世界である。そのため、レルムじゅうで、さまざまな植物が花を咲かせ、枝を伸ばして、繁栄の限りをつくしている。そのありさまは、さながら、果てしなく広がるジャングルが惑星全体をすっぽりとつつみこんでいるかのようである。トゥルーレルムは、文字通り、緑したたる惑星なのである。

 そのうえ、レルムの表面積の3分の2を占める海洋がある。この海は、緑におおわれた大陸よりも、さらに恵みが豊かで、生物の生存にもずっと適している。

 この肥沃なジャングルと恵み多き海洋が、言わば、巨大な孵卵器となって、レルムの多種多様な生き物を生み出したのである。

 ともあれ、このようにしてトゥルーレルムは、想像しうる限りのありとあらゆる生き物が雑然とひしめきあう世界となったのである。

自然界に生息する生き物

 レルムには、文明圏近くに生息していたり、探検家によってその存在が確認されたりしてよく知られているものだけでも、おびただしい数の、さまざまな種類の生き物が生息している。

 そのうえ、人知れず辺境の奥深くに生息する生き物もいる。そのような生物には、特に奇妙なものや特異なものが多く、その種類もまた膨大な数に達すると思われるのだが、実際に確認された例は、そのうちのごく少数にすぎない。本当に何が生息しているかということになると、想像に頼るしかなく、何がいても決しておかしくないとしか言いようがないのである。

 しかし、レルムの自然界に生息する生き物には、いくつかの顕著な特徴が見受けられる。

 たとえば、トゥルーレルムには、われわれの住むこの太陽系の惑星に生息している生き物のうち、大半のものが生息している。そこには、猫、猿、羊、狼などの哺乳類もいれば、トカゲ、ワニなどの爬虫類、カエル、イモリなどの両生類もいる。魚や昆虫もしかり。また、植物にしてもそうなのである。特に目をひくのが、トゥルーレルム全土に生息する新種の恐竜たちだ。

 この新種の恐竜たちは、かつての鈍重で適応性に欠けた仲間とは違って、耐久力にとみ、動きがすばやく、感覚や知能の点でもじゅうぶんな発達を遂げており、そして、何よりも抜群の適応性を備えている。恐竜たちは、陸海空と、レルムのありとあらゆる領域に生息しているが、それも彼らの持つすぐれた適応性ゆえのことである。

 ある意味では、ありあまるほど豊かなレルムの自然が、これらの大型爬虫類を生み落とし、彼らが生き残り、高度な進化を遂げるのを後押ししたのである。言わば、レルムに生息している恐竜たちは、この惑星の豊饒な自然の申し子と言うべき存在なのである。

変性獣と合成獣

 もちろん、トゥルーレルムには、われわれの住む世界と同じか、それとよく似た生き物の他にも、まったく他には見られないような生き物も多数存在する。

 その中でも、レルム独自の生き物として最も象徴的なものに、“変性獣”と“合成獣”がある。

 変性獣(ヌル・ビースト)というのは、外見こそふつうの生き物と同じだが、能力や性質などの点で大きな変化を遂げ、オリジナルの生き物とはまったく違う生物になってしまった突然変異体のことである。例を挙げると、狂暴な肉食アルマジロとか、空中を飛行する飛びエイとかである。

 かたや、合成獣(キマイラ)とは、複数の生き物の能力や外見をあわせ持つ生き物のことを意味する。たとえば、クモとカニを掛けあわせたような生き物とか、トラにコウモリの翼を生やしたような生き物などが存在するのである。

 もちろん、自然界のことわりを無視した、そのような生き物が何もないところから生まれ出てくるとは信じがたいことである。これはあくまで想像だが、おそらく合成獣は、先史文明人が作り出した人工の生命体だろうと思われる。

 実際のところ、この合成獣を別にしても、先史文明人がトゥルーレルムの自然にあたえた影響は多大なものがある。マシンビーストの中には、野性化して本物の動物のように暮らしているものもあるが、噂では、機械と有機質の肉体をあわせ持つ、サイボーグのような生き物まで生息しているとも言われているのである。